クリスがこの病室を出て行ってからというもの、私は虚ろな存在になったり、妖精の
身体を取り戻したりを繰り返していた。クリスが事故の記憶だけを失ったとわかった次
の日、トルタ達との間で交わされた会話をの全てを、私はこの耳で聞いていた。
 その判断を非難するつもりは全くなかった。それは、私の思い描いていたクリスの幸
せな未来に違いなかった。
 その幸せが、私の幸せと繋がっていないことだけは確かだったけど。

 それから私は、何度も考えた。自分は今、いったいどういう存在なんだろうかと。
 自らの悲運を嘆くことはなかった。与えられたこの姿の……この運命の意味だけを、
必死で探していた。
 そして――私が自らの死を完全に受け入れた時、その答えは出た。

 私は、クリスと一緒にいたい。

 この仮初めの命に与えられた時間を、少しでも長く、クリスと一緒に過ごしたかった。
それが、偽らざる本心だ。クリスとトルタが学院へ行ってしまうと知ったときから、そ
れは、ずっと私の心でくすぶっていた願い。

 私は神に感謝して、クリスの気配の残るこの病室を後にした。
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